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2012年02月04日

監督インタビュー

――まずは、『森男』の企画過程を教えてください。
 M.I.F.では、毎年製作映画の企画コンペをやるんです。次のM.I.F.作を決めるための。メンバーなら誰でも企画提出できて、メンバーみんなで決めます。

 で、2008年の時に、自分も1つ出すかな、企画の本数が少ないとさみしいので賑やかしでと。それで、当時職場が山間部の方で、仕事から車で帰る30分くらいの間でなんとなく考えたんですね。山の中を車が走るイメージで。そしたらなんとなくすっとストーリーができたんです、終わりのオチまで含めて。ああ、いい感じだなぁ、と企画書を出した。

 その時の企画会議では、最終の3本には残って、初稿を書いて(これも案外スルスルっと書けて)、でも結局次回作には決まらなかったんです。でもね、なんか今までの自分の作品と違って、とてもニュートラルにポッと企画やシナリオも書けて、段々「これやりたいなぁ」という気持ちが強くなりまして、次の年にもう1回企画提出して、それで製作が決まったんです。

 
――本作のコンセプト、特徴は?
 私の過去2作は、『箱』『少したのしい』となるんですが、今回は、過去2作とまったく逆のやり方でやりたいってのは大きなコンセプトでした。

 製作面と内容面と両方あるのですが、製作面においては、過去2作は、M.I.F.を設立して、よりクオリティの高い作品作りのために、プロデューサーを立てるとか、スタッフを分業制にするとか、シナリオをちゃんとみんなで練るとか、そういうコンセプトでやってきたんですね。それでその成果は十分あった。いろんな監督が作ってもM.I.F.作としてある程度のクオリティは保てるというかね。

 前作の『少したのしい』はその集大成的でして、スタッフは人材育成も兼ねて各担当にメインと助手といて、キャストも多くて、ロケ地も地元製作っていうことで色んな場所で撮影しまして、キャストスタッフ合わせると常に30人くらいいて、1日に撮影が何ヵ所もあって大移動するっていう自主映画にしてはかなり大きなパジェットだったんです。

 ただ、パジェットが大きくなると、どうしても撮影がタイトになるし、自由がきかなくて「ああ、こういいう大きいパジェットはしばらくやらなくていいな」と思ったんです。だから、次回作はとにかく小さくて小回りの利く形にしたいというのはありました。

 内容については、企画を思いついた段階では、私は色んなジャンルの映画をやってみたいってのがあって、今までやったことのないホラーっていうかサスペンス感のあるものがやりたいってのがあった。
 それとね、これは多分にあとづけなんですが、自分たちの映画製作やその他の活動をアピールする時に、「地方でもこれだけやれますよ、東京には負けてませんよ、地方だっていいところですよ」って言ってるんです。地域振興とか街おこし的なフレーズも含めてね。

 ただ、実際にはこの映画にあるように、過疎化とか深刻な問題が地方には山のようにあるわけで、そういう地方の暗の部分をテーマにしたいってのはありました。いいことばっか言っててもいかんだろうと。

 まさしく私も、実家は豊田の山間部の方なんですが、結婚して街中で暮らしてて、実家では母親が一人暮らししてますからね。申し訳ないのですが、実家の方の付き合いとかほとんどやってなくて。そういうことも言わないとと。

 そういう意味で、今回は、今までと違ったやり方でやったというのが特徴ですね。


――キャスティングについて
 キャスティングは、ほとんどの方をM.I.F.オーディションからしました。オーディションも毎年やっててこれで5回目です。毎回たくさんの方に参加いただいてうれしい限りですね。今回も70人応募がありました。

 オーディションをすると、本当にバラエティに富んだ方々が集まってくれてキャスティングできるので、映画の幅が広がりますね。自主製作映画だと、友人知人のつてをたどってキャスティングするのが多いと思うんですが、そうするとどうしても、年齢層とかが限られてくるので。
 
 森男役は、30代男性なんで、オーディションでのキャスティングは難しいかなと思ってたんです。オーディションで一番参加が少ない年齢層なので。でも、近藤さんが参加してくれて、演技もしっかりしてたので、決めました。
 近藤さん、実際はものすごくいい人でね、笑顔のさわやかな方なんです。でも今回はそれを封印してもらって「とにかく共感されないように、何を考えてるかわからないように、演技はフラットに、でもどこかひっかかりのある演技を」ってかなり難しい要求をずっとしてました。結構悩まれたと思います。

 母親役の柴田さんは、こちらからのご指名です。柴田さんは、私の前2作にの出演いただいてて、いつもチョイ役だったので、いつか主役級でお迎えしたいという気持ちがありまして、今回はその恩返し的な気持ちもあります。シナリオ書いてる時から、ある程度柴田さんを想定してましたしね。

 その他の方もうまくはまったなと思います。キャスティングはとても満足してますね。


――リハーサルをたくさんやられたそうですが。
 今までと違った形でやりたいもう1つとして、演出をちゃんとやらねばというのもありました。シナリオは、他にもいろいろ書かせてもらったりして、それなりに評価もいただいて、書けるなという自信もあって、それからロケ地はね、いいロケ地を探す才能みたいなものがあるんですよね私、ちょっと自慢なんですが。

 ただ、前2作を見直すと「演出できてねーな、俺」ってのがありまして、演出間違ってるところがいっぱいあるんですね。それで、とにかく次は演出ちゃんとやらねばと。もっとやれるだようと。なので、リハーサルをじっくりやろうと。
 前2作は、えーと、2日くらいメインのところをリハしたくらいで撮影に臨んじゃったんですが、今回は、5日間やりました。すべてのキャストで一通りやりましたね。本当はもっとやりたかったんですが、仕事が忙しくなっちゃいまして、ひと通りしかできませんでした。ここはちょっと悔やんでます。

 完成品を観て、演出間違ったな、というところは大分少なかったと思います。もっとずるずると狂気の演技を引き出せたかなぁと思う部分もありますが、自分なりにも及第点はあげられるかなと思ってます。
 小坂本町一丁目映画祭の後の交流会の時に、ある上映監督から「演出よかったですよ」って言われてうれしかったですね。


――撮影は、いかがでしたか?
 小さな編成でってことで、今回はメインスタッフは3人でやりました。私と撮影の原田君と助監督・音楽の蘭君。撮影時はそれに録音やその他に来てもらったりして、でも基本は5~6人くらいのスタッフ編成でやりました。
 だから、撮影面は原田君にがんばってもらいました。照明も兼務でしたし、ドリーやクレーンやりたいって要望したら、手作りで作ってくれたんですよ。

 合成も原田君がやってくれたし、技術面での原田君の功績は大きいですね。原田君とはテレビのドラマとかでは一緒にやってるんですが、映画として組むのは初めてなんです。もう企画が通った段階から撮影は原田君でと決めてましたので、こういう画が撮りたいって話はだいぶ前からしました。
 テスト撮影やロケハンもかなりやってくれましたね。

 だから、撮影はかなりスムーズでした。撮影が押したことってほとんどなかったんじゃないかな。大体予定より早く終わって、ゆっくり晩飯食べれましたから。

 ちょっと話は変わりますが、今回シナリオも全然書き直してないんです。M.I.F.作は、いろんな人の意見を聞いて、徹底的にシナリオを練るというのがコンセプトなんですが、今回は、申し訳ないけど自分のやりたいようにやらせてくれ、って言ってシナリオも2稿を決定稿にしてます。誰の意見も聞かず自分のやりたいようにやらせてもらいました。初稿のスルッと思いついた勢いを生かしたかったというのもありますし。

 シナリオ練っていくと、意味とかテーマがしっかりと見えてくるというか、見ざるを得なくなるんですが、今回はそのあたりはあまりつきつめないで、多分に感覚的でしたね。
 例えば、森男がマスターベーションでハサミを使ってますが、あれも、ちょっとやってみようかって感じで使ってます。まあ、一応、ハサミとかマチ針とか、母親から離れられない象徴として使ってますが、それ以上の意味は考えなかった。

 そしたら、映画を観たいろんな人から「あれは、こういう意味でしょう?」とこちらが考えてもいなかったことを色々言われて、「へえ、そういう解釈もあるのか」って逆に納得したりして。そういう意味では、こっちがつきつめなかった分、広がりのある映画になったのかなぁと思ってます。
 ラストシーンなんかもね「よくわからない」とも言われましたが、まあ、それぞれで考えてくださいって感じで。

 だから、原田君も、蘭君も、その辺は「これ、どういう意味ですか?」なんて言わずに、ついてきてくれたので、ありがたかったですね。

 音楽も、蘭君に、とりあえず何曲かアンビエントなやつ作ってよって言って、5曲くらい作ってくれて、それが結構ぴたっとはまったので、追加でお願いすることはなかったです。
 そういう意味でも小編成のスタッフワークはうまくいったかなと思ってます。


――最後に、映画をご覧の方にメッセージを。
 そうですね、この映画って、過疎化とか晩婚化とか重いテーマを含みつつも、一応ホラーっていうエンターテイメントとして作りましたので、あとは見る人それぞれで違った見方をしてくれればと思います。
 映画で描かれてる以上の裏の意味とかメッセージは特になくて、森男っていう男の佇まいだけを映し撮ろうということしか考えてませんでしたから。
 なので、いろんな楽しみ方をしてもらえれば、それだけでうれしいです。



Posted by みふだいひょう at 00:46│Comments(0)
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